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環状島=トラウマの地政学 新装版|宮地尚子

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戦争から児童虐待にいたるまで、トラウマをもたらす出来事はたえまなく起きている。「言葉では表現しようのない」この出来事は、それでも言語化されていった。しかし、言葉にならないはずのトラウマを伝達可能な言語にするという矛盾は、発話者をも聞く者をも揺るがせる。「なぜあなたが(もしくはこの私が)その問題について語ることができるのか」「もっと悲惨な思いをした人はたくさんいるのではないか」にはじまる問いは限りなく、お互いの感情を揺さぶり、自身を責めさいなむ。 「だからここで考えてみたい。トラウマについて語る声が、公的空間においてどのように立ち現れ、どのように扱われるのか。被害当事者、支援者、代弁者、家族や遺族、専門家、研究者、傍観者などはそれぞれどのような位置にあり、どのような関係にあるのか」 前著『トラウマの医療人類学』を継ぐ本書で、著者は「環状島」をモデルに、加害者も含め、トラウマをめぐる関係者のポジショナリティとその力動を体系的に描いた。〈内海〉〈外海〉〈斜面〉〈尾根〉〈水位〉〈風〉などの用語を駆使しながら、トラウマをめぐる全体像とあるべき方向性をしめした初めての試みである。関係者のみならず、クライアントと日々を共にする医師であり、マイノリティ問題にかかわる研究者である著者自身にとっても、本書は実践と倫理のための道標になるだろう。 目次 1 トラウマについて語ること――環状島というモデル はじめに/サバイバル・マップ/発話者のいる島、環状島/円錐島との比較 2 〈内海〉に沈む被害者たち 犯罪被害のトラウマと法的救済/環状島に働く力――〈重力〉と〈風〉/環状島の特徴――〈水位〉/社会運動と環状島 3 環状島の生成過程――セクシュアル・ハラスメント裁判から 1 日本初のセクシュアル・ハラスメント裁判/被害の経過/高い〈水位〉/環の形成/時代背景と〈水位〉〈波〉/支援者との溝/〈風〉――一般論/〈風〉――晴野の場合/〈島〉 4 複数の環状島――セクシュアル・ハラスメント裁判から 2 別の島影/もう一つの島影/いくつもの環状島/雄弁な発話者を生む条件/雄弁さの相対性 5 複数のイシュー化と複合的アイデンティティ 環状島とアイデンティティ/重層差別や複合差別/複数の環状島を描くということ/重さ比べ/複合的アイデンティティ 6 脱アイデンティティとアイデンティフィケーション 脱アイデンティティ論/「一部圧倒性」と「一部了解不能性」 7 ポジショナリティの問いかけ ポジショナリティをめぐる議論/〈内斜面〉から〈外斜面〉への問いかけ/異なるイシュー化と複数の環状島/中立や普遍性のもつ偏り/ポジショナリティの問いかけは〈外斜面〉に向かうが〈外海〉には向かわない/ポジショナリティの問いかけは〈外斜面〉の人を〈外海〉に押し流しかねない/複合差別や重層差別/可視的なカテゴリーや集団帰属によるポジショナリティの問いかけの限界/「正しさ」が必ずしも問題なのではない/「度しがたいまでの無知」と「度しがたいまでの有知」/アリス・ウォーカーの「投企的同一化」 8 加害者はどこにいるのか 加害者の位置/加害者は立ち去って、そこにはいない/加害者はその場にいる/真上からしか見えない傷/井戸の底/外傷的絆/加害者の償いと被害者の赦し 9 研究者の位置と当事者研究 研究者の位置/跳躍・帰郷の場・論文作成/当事者研究 10 環状島と知の役割 研究者・専門家・知識人の役割/学問領域による差異/役割の悪用や迫害/悪用できない知はない/新しい知識人像/かくれ当事者研究もしくは抽象化の効用/最後に あとがき 参考文献 宮地尚子 (ミヤジナオコ) (著/文) 一橋大学大学院社会学研究科地球社会研究専攻・教授。精神科医師。医学博士。1986年京都府立医科大学卒業。1993年同大学院修了。1989年から1992年、ハーバード大学医学部社会医学教室および法学部人権講座に客員研究員として留学。1993年より近畿大学医学部衛生学教室勤務を経て、2001年より現職。専門は文化精神医学、医療人類学、ジェンダーとセクシュアリティ。 上記内容は本書刊行時のものです。 みすず書房 2018年 四六判 238P

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