《本書のテーマは副題に含まれている「喪」と「批評」という2つの言葉の間に発見すべきもので、それは著者自身にとっても終わることのない課題である。しかし、「旅」が第三のモチーフとして「喪」と「批評」のあいだに否応なく浮上する。実際論考の多くが、日本の内外を問わず、客地での発表が元になっている。また最初にフランス語もしくは英語で書かれたものが8本あり、翻訳に思いのほか時間を要した。(……)
本書所収の諸論考の成立は2000年から2022年にわたる。この20年あまりは、私がもっとも頻繁に「旅」への誘いを受けた歳月だった。そしてこの時期は新型コロナウイルスの到来によって突然終わった。この時代の転換は、個人的には教職の任用期間の終了に重なってもいた。いずれにせよあのような「旅」の時代が戻ってくることは二度とないだろう。その意味で本書は私の人生のひとつの時期の決算であり、別の「旅」への準備でもある。》(あとがき)
戦争、地震、原発事故、疫病、そして差別と抗争。この時代に死者を悼みつつ生き続け、新たな旅へと誘う哲学・文学・芸術とは? 未知の世界への他者からの招待、その歓待に応答を試みる「魂」の冒険。友愛に満ちた21世紀論考集成。
目次
I
解体と発明 哀悼の言説をめぐって/旅のさとり 季村敏夫詩集『日々の、すみか』/〈彼〉の声を聞く、〈私〉のなかで 港道隆さんの仕事/終わりなき響き ジャン=リュック・ナンシーのために/死を撮ること、見せること 西井一夫の〈ゼロ年〉/魂の造形家 津田新吾さん
II
家族のいくつもの目的=終焉/深淵に置かれたオリエント/殺生をまなざす 深沢七郎『笛吹川』/真理の二つの顔、あるいは敗者たちの詩人 ジャン=リュック・ゴダールのために
III
名を駆け抜けたもの/いくつもの砂漠、いくつもの夜/偶然の飛沫 ジャン・ジュネ『イビスへの手紙』『判決』刊行に寄せて/神の肛門 あるいはピエール・ギュイヨタの流儀で〈歴史〉に触れること
IV
〈出会う〉とはどのようなことか、とりわけまず、李禹煥に?/カリグラフィと歴史 アブデルケビール・ハティビの仕事/イスラームと精神分析 ジョアン・コプチェクの発表に触れて/反時代的イスラーム ハーシム・フォーダのために
V
「道おしへ」のポエティック 吉増剛造の下降する言葉/ハリネズミの白 翻訳から詩が生まれるとき/ベケットの「短い夢」/「災間期」の言葉の分解と官能 赤坂憲雄・藤原辰史『言葉をもみほぐす』/類比は理ならず エティアンブルからスピヴァクへ、東アジアの複数の越境を経由して
VI
詩の贈与/金時鐘さんがみつめてきたもの/夢と自由と 金石範『火山島』韓国語版完成を讃えて/二つの「呪縛」をつなぐもの
VII
もう一つのリミット 福山知佐子画集『花裂ける、廃絵逆めぐり』/現れざる言葉、あるいはオマージュへのオマージュ 福山知佐子『反絵、触れる、けだもののフラボン』に寄せて/母の魂の襞へ 伊藤二子さんの世界/母の色「黒」が始源/造形が始まるとき 伊藤二子展に寄せて/八戸、私の愛 伊藤二子、豊島重之のために
初出一覧/あとがき
鵜飼哲 (ウカイサトシ) (著/文)
1955年東京都に生まれる。フランス文学・思想専攻。一橋大学名誉教授。著書に、『抵抗への招待』(みすず書房、1997)『償いのアルケオロジー』(河出書房新社、1997)『応答する力:来るべき言葉たちへ』(青土社、2003)『主権のかなたで』(岩波書店、2008)『ジャッキー・デリダの墓』(みすず書房、2014)『テロルはどこから到来したか:その政治的主体と思想』『まつろわぬ者たちの祭り:日本型祝賀資本主義批判』(インパクト出版会、2020)。訳書に、ジュネ『恋する虜:パレスチナへの旅』(共訳、人文書院、1994)『アルベルト・ジャコメッティのアトリエ』(現代企画室、1999)『シャティーラの四時間』(共訳、インスクリプト、2010)デリダ『他の岬:ヨーロッパと民主主義』(共訳、みすず書房、1993)『盲者の記憶:自画像およびその他の廃墟』(みすず書房、1998)『友愛のポリティックス』(共訳、みすず書房、2003)『生きることを学ぶ、終に』(みすず書房、2005)『ならず者たち』(共訳、みすず書房、2009)『動物を追う、ゆえに私は(動物で)ある』(筑摩書房、2014)などがある。
上記内容は本書刊行時のものです。
みすず書房
2023年
四六判 376P